レーザーは、特定の波長にそろえた光を照射する治療機器の総称です。皮膚の中の色素(メラニン)・血液(ヘモグロビン)・水分といった「発色団(ターゲットになる成分)」は、それぞれ吸収しやすい波長が異なります。この性質を利用し、狙った発色団だけに熱や衝撃波を集中させ、周囲の正常組織へのダメージを抑えるという考え方を「選択的光熱融解理論」と呼びます。パルス幅(光を当てる時間の長さ)を標的の熱が広がる前に収める設計にすることで、この「狙い撃ち」が成立します。
ルビー、アレキサンドライト、YAG、CO2 — これらはすべて「光を作っている材料(媒質)」の名前です。名前がバラバラに見えて覚えづらいのは、そこに意味があると知らないからです。
📖 教科書の定義
『Baumann's Cosmetic Dermatology, 3rd edition』Chapter 26 "Lasers and Light Devices" p.382
"Many lasers are named based on the type of lasing medium that they contain. Lasing mediums can be liquid (e.g., rhodamine dye), solid (e.g., crystals such as alexandrite, neodymium-doped yttrium aluminum garnet, or ruby; or semiconductors such as diode) or gas (e.g., argon, CO2, or helium-neon)."
(多くのレーザーは、そこに含まれるレーザー媒質の種類に基づいて命名されている。媒質は液体[ローダミン色素など]、固体[アレキサンドライト、Nd:YAG、ルビーなどの結晶、あるいはダイオードなどの半導体]、気体[アルゴン、CO2、ヘリウム・ネオンなど]に分類される。)
『Plastic Surgery Volume 2, 5th Edition』Chapter 8.4 にも "The medium can be a gas, liquid, or solid, and this will often be used to name the type of laser (e.g., ruby laser and CO2 laser)." と、同じことが書かれています。
| 媒質(=レーザー名) | 分類 | 波長 | ターゲット | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| ルビー Cr:Al₂O₃ 結晶 | 固体 | 694nm | メラニン | 院内Q+R。太田母斑・ADM・扁平母斑・日光黒子・タトゥー(黒青茶緑紫) |
| アレキサンドライト Cr:BeAl₂O₄ 結晶 | 固体 | 755nm | メラニン | アザ・脱毛(明るい肌に高効果)・緑のタトゥー |
| Nd:YAG ネオジムをドープしたYAG結晶 | 固体 | 1064nm | メラニン(弱) ヘモグロビン | 深部まで届く。色黒肌の脱毛のゴールドスタンダード、深い血管病変、真皮の色素 |
| KTP / Nd:YAG 結晶で周波数を2倍に変換 | 固体 | 532nm | ヘモグロビン メラニン | 1064nmの半分の波長を作る。表在性の血管・色素斑、赤いタトゥー |
| ダイオード 半導体そのもの | 半導体 | 800-810nm 他 | メラニン | 脱毛(太く濃い毛)。940nmは血管にも |
| 色素(ローダミン) 液体の色素を使う | 液体 | 585 / 595nm | ヘモグロビン | 血管腫・赤ら顔のゴールドスタンダード ※院内未搭載 |
| ツリウム Tmをドープしたファイバー | 固体 | 1,927nm | 水 | 表皮〜DEJで止まる。アジア人の肝斑・くすみを低PIHリスクで(後述) |
| Er:YAG | 固体 | 2,940nm | 水 | 水への吸収がCO2の10倍。精密に削る・ダウンタイムの短いフラクショナル |
| CO2(炭酸ガス) | 気体 | 10,600nm | 水 | 表皮を蒸散。ほくろ・イボの除去、フラクショナル |
💡 この表の読み方 — 覚えるのは「ターゲット」だけでいい
波長を丸暗記する必要はありません。「この機械は何を狙っているか」だけ掴めば十分です。
・メラニンを狙う=ルビー・アレキ・Nd:YAG・ダイオード → シミ・アザ・脱毛
・ヘモグロビンを狙う=色素レーザー・KTP → 赤ら顔・血管
・水を狙う=ツリウム・Er:YAG・CO2 → 削る/肌の入れ替え
同じ「レーザー」でも、狙うものが違えば別の機械だと考えてください。
あまり知られていませんが、教科書はツリウムレーザーをアジア人の色素治療に有用と位置づけています。
📖 教科書の記載
『Aesthetic Plastic Surgery of the East Asian Face』Chapter 26 p.343/『Plastic Surgery Vol.2』Ch8.4
ツリウム(1,927nm)は水がターゲット。アブレイティブ(削る)とノンアブレイティブ(削らない)の中間に位置し、メラニンが集中する「表皮真皮接合部(DEJ)」を精密に狙うことで、アジア人の肝斑やくすみ・浅い色素斑を、PIH(炎症後色素沈着)のリスクを抑えて治療できるとされています。
なぜ肝斑に使えるのか — 逆説的ですが、「深く入らないから」です。
| 波長 | 水への吸収 | どこまで届くか | 向いている悩み |
|---|---|---|---|
| 1,550nm(Er:Glass) | 中 | 真皮まで | シワ・ニキビ痕・瘢痕 |
| 1,927nm(ツリウム) | 高い | 表皮〜DEJ で止まる | 色素・くすみ・肝斑 |
| 2,940nm(Er:YAG) | 非常に高い | 表皮を削る | 削る治療 |
| 10,600nm(CO2) | 高い | 削る+熱凝固 | 削る治療 |
🔑 ポイント — 「肝斑に光はNG」の例外
肝斑の本体は、表皮のメラニンだけでなく真皮の血管増生や炎症です(→ Q5)。だから真皮に熱を入れる治療は肝斑を悪化させます。
ところが1,927nmは水に強く吸収されるため、表皮〜DEJで吸収されきって真皮に届きません。そしてメラニンが最も集中しているのがまさにそのDEJ。
「狙いたい場所にちょうど届き、悪化させたくない場所には届かない」 — これがツリウムが肝斑に使える理屈です。
媒質にエネルギーを注ぎ込んで光らせる仕組みを励起(pumping)と呼びます。
📖 教科書の定義
『Baumann's Cosmetic Dermatology, 3rd edition』Chapter 26 p.382
"To accomplish this, the laser must have a source of energy, referred to as the pump. Energy from the pump is absorbed by atoms in the form of photons. The atoms then emit photons in the form of light."
(そのためにレーザーは「ポンプ」と呼ばれるエネルギー源を持つ必要がある。ポンプからのエネルギーが光子として原子に吸収され、その原子が光として光子を放出する。)
| 励起のしかた | どのレーザーか |
|---|---|
| フラッシュランプ励起 強力な閃光を浴びせる | 固体レーザー(ルビー・アレキ・Nd:YAG等)、色素レーザー(PDL) |
| 電流で直接 | ダイオード(半導体なので電流だけで光る=効率がよい) |
| ダイオード励起(DPSS) | 小型ダイオードで固体レーザーを励起する方式。近年増えている |
| 電気的に気体を励起 | CO2 など気体レーザー |
💡 カウンセラーとしては、ここまで知っていれば十分
「レーザーの名前=中に入っている材料の名前。材料が決まると波長が決まり、波長が決まると狙えるものが決まる」
この一本の筋が通っていれば、機器の名前が増えても迷いません。患者さんに励起の仕組みまで説明する必要はありません。
| 系統 | 狙う的 | 代表的なレーザー | 主な適応 |
|---|---|---|---|
| 色素系 | メラニン | Qスイッチレーザー(ルビー694nm等)/ピコ秒レーザー | 日光黒子・ADM・太田母斑・タトゥー・肝斑トーニング |
| 血管系 | ヘモグロビン | 色素レーザー(PDL/Vビーム 595nm)/Nd:YAG | 赤ら顔・毛細血管拡張・単純性血管腫 |
| 組織・水分系 | 水分 | フラクショナルレーザー/炭酸ガス(CO2)レーザー | ニキビ跡・小じわ・ほくろ/イボ除去 |
| 脱毛系 | 毛根のメラニン | アレキサンドライト/ダイオード/Nd:YAG | 医療脱毛 |
「レーザー」は単一波長を点で強く当てるのに対し、IPL(光治療)は幅広い波長を面で穏やかに当てる治療です。詳しくはQ41 IPLとはをご参照ください。
💡 悩み別にどのレーザー系統?(ひとことガイド)
・濃いシミ・あざ・タトゥー → 色素系(Qスイッチ/ピコ秒)
・赤ら顔・毛細血管の赤み → 血管系(PDL/Vビーム)※院内は血管専用レーザー未搭載
・肌質・毛穴・ニキビ跡 → フラクショナル系
・ほくろ・イボ → 炭酸ガス(CO2)系
・ムダ毛 → 脱毛用レーザー(院内は2026年8月上旬導入予定)
どの系統・機種が実際に適応するかは医師が診察して判断します。
| 系統・相談 | 第一選択(出典付き) | 院内可否 | 院内対応 or 代替・紹介 |
|---|---|---|---|
| 色素系(シミ・あざ・タトゥー) | Qスイッチ/ピコ秒レーザー 原典Q3・Q36/37 |
✅ ピコで対応可 | ピコスポット/ピコトーニング(5,500円〜/1か所)。Qスイッチルビー(694nm・機種Q+R)導入済み |
| 血管系(赤ら顔・毛細血管拡張) | 色素レーザー(PDL/Vビーム 595nm) 原典Q23・Q38 |
❌ 未搭載 | 全顔マイルドな赤みはIPL(ステラM22 Vasculaフィルタ)で代替可(12,100円〜)。はっきりした毛細血管拡張・単純性血管腫はPDL未搭載のため他院紹介(血管レーザー搭載施設/保険皮膚科) |
| 肌質・毛穴・ニキビ跡(フラクショナル) | フラクショナルCO2/Er:YAGレーザー 原典Q26・Q39 |
△ レーザー機自体は未搭載 | 針RF(ポテンツァ等)やピコフラクショナルで代替。医師が適応判断 |
| ほくろ・イボ除去 | 炭酸ガス(CO2)レーザー等 原典Q30・Q31・Q40 |
✅ 院内対応可(高周波電気メスによるくり抜き法・5mm以下目安/CO2レーザーは未搭載。Q31・Q40準拠) | ほくろ・いぼ除去メニューあり。悪性が疑われる場合は焼かず保険皮膚科で生検を優先 |
| 医療脱毛 | アレキサンドライト/ダイオード/Nd:YAGレーザー 原典Q28 |
2026年8月上旬導入予定(ジェントルマックスプロプラス=755nmアレキ+1064nm Nd:YAG) | 導入後は院内で対応予定。導入前のご案内・運用詳細は⭐要ドクター最終確認 |
・「レーザーは、シミ・血管・肌質など狙う対象によって種類が分かれます。どのレーザーが向くかは医師が診察して判断します」
・「濃いシミには当院のピコ秒レーザーが向いていることが多いです。赤ら顔の血管専用レーザーは当院にないので、必要な場合は専門施設をご案内することがあります」
・「レーザーとフォトフェイシャル(IPL)は、点で強く当てるか面で穏やかに当てるかの違いです。お悩みに合わせてご提案します」
| レーザーとIPLはどう違う? | レーザーは単一波長を点で強力に、IPLは幅広い波長を面で穏やかに当てます。悩みや範囲に応じて医師が選びます |
| どのレーザーが自分に合うかは誰が決める? | 種類の説明はカウンセラーが行いますが、最終的な適応判断は医師の診察で行います |
| 当院にないレーザーの治療をしたい場合は? | 血管専用レーザー(PDL/Vビーム)など院内にない機器が第一選択の場合、代替のご案内、または他院・保険皮膚科への紹介を医師判断で行います |
Q36 Qスイッチレーザー / Q37 ピコ秒レーザー / Q38 色素レーザー / Q39 フラクショナルレーザー / Q40 炭酸ガスレーザー / Q41 IPL